GOURMET
2020.03.03 2020/10/23
おじまあきら
甲子園|カツ丼(大)はやめました。でもやっぱりお値打ち感満載な食堂
甲子園球場の南西側、ほんの少し下がったところに「大力食堂」というお店があります。小さな商店街のごく目立たない店ですが、ここを目指して遠方から訪れる人も多いという不思議な店です。今回はこの知る人ぞ知る大力食堂をご紹介します。
1966年創業 まさに昭和の空気溢れる昔ながらの食堂
昭和の雰囲気に溢れたというか、お店の前に居ても中から昭和が漏れ出してくるかのようなお店の外観です。引き戸をくぐって中に入ると、六人掛けと四人掛けのテーブルが並んでいて、まさに昭和の空気。そうですね、なんというかもう「吉本新喜劇のセットのような」とでもいいますか、そんな濃密な空間です。
店内の壁には所狭しと色紙が貼ってあります。よくある芸能人の色紙もなんですが、それよりも圧倒的に多いのが学生、それも運動部の学生と思われる数人の寄せ書きです。なかに「全員完食」なんて書かれているものもあります。これはただごとではありませんね。そう、ここは各地に名を知られた「デカ盛り」のお店でした。そして我こそはと腕に覚えのある(?)大食いの猛者達が戦った証が、この壁一面の色紙だったのです。
全国の猛者が挑んだデカ盛りカツ丼
筆者が初めてこのお店を訪れたのは、もう十年ほども前です。その頃ここのメニューには「カツ丼」と「カツ丼(小)」がありました。迷わず「カツ丼」を注文したのですが、出てきたそれは想像を超えたボリュームでした。いや、事前に多少の情報は仕入れていたのです。そしてその直前に膳所の美富士食堂のカツ丼をやっつけていたという自信から、まあ大丈夫だろうと高をくくっていたのです。しかし、これは。
丼の上に丸くこんもりと形成されたカツ丼は、全体としてまるで「棒のない巨大チュッパ・チャップス」といったビジュアルでした。しかも丼物なのに、空のお椀とカレースプーンが添えられていました。そして最初に箸を付けた瞬間、その意味を理解しました。そう、通常の食べ方では崩れてしまうのです。側面部分がほぼ垂直に立ち上がっているので、慎重に掘り進むように食べなければこぼれてしまいます。その工法を採用するためのカレースプーンだったのです。さらに食べ始めてわかったのですが、このご飯は圧縮されていました。そう、この見た目以上に、内容はさらに充実しているのです。そして「つゆだく」でした。これは何を意味するかというと「時間をかければダシを吸ってさらにご飯の量がかさむ」ということです。この事実に直面した時、ふと黒部第四ダムのドキュメンタリーを思い出しました。同時に頭の中に中島みゆきさんの「地上の星」が回り始めました。「工期は大幅に遅れていた。おじまは焦っていた。このままではどんどん工事は困難になってしまう。先は、見えない…」あのナレーションも聞こえてきました。
カレースプーンでひたすらご飯に穴を穿ちながら、時折上部の具を食べる。その繰り返しを続け、ついにご飯1/3ほどを残すのみ、となった時に、急に箸(スプーンですが)が進まなくなりました。ペース配分を誤ってしまったのでしょうか、根性が足りなかったのでしょうか、そこでリタイヤしてしまったのです。ちなみにあとで聞いたところでは、ご飯は二合あまりだったそうです。
その時の悔しさを忘れず、二度目のチャレンジ。その時には「カツ丼」は「カツ丼(大)」という表示になっていました。不意打ち感が減ってフェアな表示になった、ともいえるでしょう。そして、その時はなんとか完食しました。
以後、ここのカツ丼(大)は三回ほど完食しています。そのたびに達成感と、少しの後悔をおぼえつつ。
時代と共に「大」は消えてしまいましたが…
そんな「カツ丼(大)」ですが、表の看板にもあるとおり現在は廃盤メニューになってしまいました。最近のSNSブームで「映え」狙いの人が注文して、写真を撮るだけ撮ってほとんど残してしまう、という哀しいことが目立つようになったのだそうです。元々は運動部の若者達などに思いっきり食べてもらいたい、という志の籠もったメニューだっただけに、お店の人もとても残念な気持ちだったに違いありません。
それでこの日は「カツ丼(小)」をいただきました。小といってもこのサイズです。普通のお店の大盛りよりもパワフルかも知れません。実はぼくは(大)よりもこのサイズの方が、ぼくの身の丈というか容量に合っていると感じています。味は少し濃いめですが、おいしいカツ丼です。そしてなんといっても素晴らしいのは、これが600円だということです。
西宮でお昼時、おなかが空いたなぁーと感じたら大力食堂。末永く続けて欲しいお店です。
INFORMATION
大力食堂 (だいりきしょくどう)
- 西宮市甲子園網引町2-29
- 0798-49-0800
- 10:00~22:00
- 月一回不定休
- 阪神甲子園駅下車 南へ徒歩8分