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西宮で初詣|素盞嗚神社

 甲子園球場の南西側に、まるで寄り添うように位置する素盞嗚(すさのお)神社。阪神甲子園駅から野球を観にやってくるタイガースファンの人達から見ると、まるで「球場の裏側にあるタイガースの神社」のように感じられるかも知れません。しかしそれは大きな間違いです。神社の創建はおよそ四百年前、球場よりも遥かに歴史は長いのです。

 甲子園球場とららぽーと甲子園の間を南北に走る浜甲子園甲子園口停車場線(県道340号)は、もともと枝川という川でした。枝川は上甲子園の甲子園ホテル(現在は武庫川女子大の建築科等がキャンパスとして使っています)付近で武庫川から分岐した支流で、そして阪神電鉄甲子園駅の辺りでさらに申川という西に向かう支流と分岐していました。この枝川と申川が分かれるところの三角州に造営されたのが素盞嗚神社です。

阪神タイガースの岡田元監督が寄贈された野球塚

 「スサノオ神社(いろんな漢字が当てられます)」は日本各地にありますが、よく言われるのは治水と関連している、いわゆる「暴れ川」の近くに位置していることが多いようです。甲子園素盞嗚神社も、かつて暴れ川だった武庫川から、支流の流域南側にあった中津村を守る願いが込められていたのでしょう。

 中津村は半農半漁の集落でしたが、土地は砂地で耕地としては恵まれていませんでした。稲作などには適していなかったのですね。それで油を取るための菜種とか、イチゴの栽培などをしていたそうです。漁業に関しては、この辺りは鰯などがたくさん獲れたので非常に盛んで、季節によっては四国などからも漁師さんが大勢出稼ぎに来ていたそうです。

お稲荷さんと恵比寿さん

 中津村に隣接していた鳴尾村も漁師さんが多かったのですが、ある日その網に恵比寿さんが掛かったのだそうです。陸に揚げられた後、恵比寿さんは「西へ連れて行け」とおっしゃって、落ち着かれた先がいまの西宮神社(西宮のえべっさん)だといいます。浜から上陸されたということで、鳴尾の浜と中津の浜に恵比寿さんを祀った祠があったのですが、その後堤防が築かれた時に、素盞嗚神社の中に移されました。いま社地の一角に、その恵比寿さんを祭った祠があります。

 また、神社拝殿の隣にはお稲荷さんのお社もありますが、これは農業の繁栄を祈念して勧請されたそうです。

 令和四年の年が明けてまもなく、素盞嗚神社に初詣をしました。実は筆者はここから直線で300メートルほどの場所で生まれたので、産土神様なのです。午前零時を20分ほど回った頃でしたが、参拝の人の列は鳥居を少し越えて伸びていました。今年はお正月期間限定で「阪神タイガース仕様の御朱印」が用意されて、それが人気で千を超える数が出たといいます。やはりこの立地です、普段から阪神タイガースファンの方のお詣りが多く、阪神タイガースの球団もこちらの氏子さんなのだそうです。

 正月のきんきんに冷えた夜気のもと、列に並んで鳥居をくぐります。右手でお焚き上げをしている炎の暖かさがうれしいです。突き当たり、お手水で手を浄めます。もしかしたら千切れたかと思うくらい冷えます。右に90度曲がって、拝殿に向かいます。お賽銭をして、本坪鈴を鳴らして、二礼、二拍、一礼。去年もなんとか楽しく過ごさせていただきました、と感謝を伝えます。

 そのあと、お正月期間限定の御朱印をいただきます。いま使っている御朱印帳は実はここ素盞嗚神社のもので、令和二年二月二日、令和三年三月三日にそれぞれこちらで御朱印をいただきました。今回のは別紙なのでこれに貼って、今年もまた四月四日に頂きに来ようかと思っています。

 神社にお詣りしたというと、よく「何をお願いした?」と聞かれますよね。「いや、神さんに日頃ありがとう、て伝えに行ってるだけやから」と答えるのですが、やっぱりそういうお願い、御利益といったものを気にされる方は多いみたいです。そこで、ちょっと聞きにくいのですが宮司さんに伺ってみました。

「いまはここは野球の神様ですが(笑)もともと素盞嗚さんはヤマタノオロチを退治されたような武芸に秀でた神様です。また日本に木の種を持ってこられて植えられた林業の神様でもあります。ヤマタノオロチ退治にお酒を使われたということでお酒の神様でもありますし、和歌を詠まれるなど学業の神様でもあります。京都の八坂さんは疫病退散の神様ですけど、あの神様も実は素盞嗚さんです。川が氾濫したり海が荒れたりして水が上がってきますと、やはり不浄なもの、病気が流行りやすくなりますから、治水の神様はそれから助けてくれる神様ということでもあります。なので、これら全て非常に守備範囲の広い御利益があると思っていただいていいかと思いますよ」

 続いて宮司さんに、開門時間を伺ってみました。

「いつも開門しています。当神社には門に扉がないんです。閉めたら毎朝決まった時間に開けなあかんでしょ?(笑)」

 阪神甲子園駅から徒歩10分。タイガース絵馬など、阪神タイガースとコラボレーションしたアイテムもたくさん揃っています。ぜひ一度お出かけください。

INFORMATION

素盞嗚神社(甲子園素盞嗚神社)

  • 兵庫県西宮市甲子園町2-40
  • 24時間開門
  • 阪神甲子園駅 徒歩10分