【美術館・展覧会レポ】西宮市大谷記念美術館 開館50周年記念 特別展『Back to 1972 50年前の現代美術へ』

西宮市大谷美術館前にかけられた特別展の看板

2022年に開館50周年を迎える西宮市大谷記念美術館。こちらでは12月11日(日)までの会期で特別展「Back to 1972 50年前の現代美術へ」が開催されています。館が出来た1972年の社会情勢や美術界に焦点を当て、当時の現代美術を振り返る展覧会です。

西宮市大谷記念美術館の外観
西宮市大谷記念美術館の外観

今回なんと美術館の学芸員・内村さんに、直接展示を案内していただくという貴重な機会を得ました!内村さんの解説や筆者の感想をもとに、本展覧会の魅力をご紹介していきます。

50年前の日本と美術界を振り返る

本展は1972年の現代美術を5つのテーマに分けて紹介しています。

 第0章の導入解説前に立つ筆者
第0章の導入(手前は筆者)

1972年は、札幌冬季オリンピックの開催や沖縄の本土復帰、日中国交正常化、パンダの初来日など、明るい話題の多かった年です。

その一方で、あさま山荘事件や公害問題の深刻化など、ネガティブな問題を抱えた年でもありました。

現代美術には、社会情勢や問題の影響が色濃く反映されます。展示室には、1972年の光と影、それぞれを反映した作品が並びます。

また、今では当たり前になっているカラー写真やコピー機が一般に普及したのもこのころ。テクノロジーの発展は、美術製作にも大きな影響を与えました。

一方で70年代初頭は「美術とは何か」という根本的な問いがなされた時期でもあるそうです。そのため、新しい技法・素材を用いた意欲的な作品も多く生み出されました。

奥田善巳《ロープたち》西宮市大谷美術館蔵
奥田善巳《ロープたち》西宮市大谷美術館蔵
植松奎二《空間関係構造態―樹、人、ロープⅠ》 および、《空間関係構造態―樹、人、ロープⅡ》
どちらも作家蔵
植松奎二《空間関係構造態―樹、人、ロープⅠ》
同《空間関係構造態―樹、人、ロープⅡ》
どちらも作家蔵

そうした作品たちからは明確なモチーフ・主題のようなものは感じられず、どこか観念的な印象を受けます。写真やロープなど身近な素材を使っているのに、どこか非現実的で不思議な感じ。

先進気鋭の作家たちによる「新しい美術」の模索、そのエネルギーを静かに、しかし強烈に感じました。

具体美術協会に関する資料の展示
具体美術協会に関する貴重な資料

また、芦屋市で結成された具体美術協会(1972年に解散)に関する展示も見ごたえがあります。

同協会の代表を務めた前衛画家・吉原治良(よしはら じろう)は、「誰もやらないことをやれ」をスローガンにしていました。そのためか、展示室に並んだ同協会員の作品は、モーター仕掛けのものやシルクスクリーンを用いたものなどかなり独特!

松田豊《SRU-SRU-L》 
和歌山県立美術館蔵
松田豊《SRU-SRU-L》
和歌山県立美術館蔵
今井祝雄《10時5分》作家蔵
今井祝雄《10時5分》作家蔵

不思議な魅力があり、筆者もつい見入ってしまいました。

1972年のアートシーンを体感する

展示室には美術作品だけでなく、1972年に開催された展示会の写真も並んでいました。写真からは、当時のアートシーンを取り巻く環境や現場の臨場感が伝わってきます。

また、 美術品には展示室の雰囲気も大切な要素。展示環境が異なるだけでも、作品の雰囲気に大きな影響があることが分かります。

福岡道雄《蛾2》国立国際美術館蔵
福岡道雄《蛾2》国立国際美術館蔵

たとえばこちらの《蛾2》。プラスチック樹脂製の巨大な蛾で、この特別展チラシにも載っている作品です。白壁に架けられた2匹の黒々とした蛾は、立体的でどこか神秘的な印象を受けます。

しかし、内村さんのお話によると、もともとは大阪にあった信濃橋画廊の個展で展示されてたものだそう。黒壁に浮き上がる蛾は不気味な魅力に溢れていたのだとか。

展示環境で作品の雰囲気も変わる、美術品のおもしろさと展示の難しさを感じました。

さまざまな版画作品がおもしろい

1970年代から80年代にかけて、版画に関するさまざまな技法・道具が編み出され、後に「版画の黄金時代」と呼ばれました。

シルクスクリーンや写真製版が、版画の技法として応用・確立され、版画は紙だけではなく、布や石にも表現することができるようになったのです。

下谷千尋《PRINTED ROCK(A)》京都市美術館蔵
下谷千尋《PRINTED ROCK(A)》京都市美術館蔵

展示室にはさまざまな版画作品が並び、版画作家たちによる試行錯誤の様子が感じられました。紙はもちろん、石や布などに刷られた作品はインパクト抜群!

広がりを見せる版画に対し、やや皮肉を込めた作品もあってなかなかの衝撃でした。作家たちが版画に込めた想いをあれこれ想像するのも楽しい。

同時開催『大谷竹次郎とコレクション』展

1階の常設展示室では、小企画展『大谷竹次郎とコレクション』が開催されています。 この大谷記念美術館は、実業家の大谷竹次郎氏が、西宮市に美術品を寄贈したことが開館のきっかけ。この小企画展では、大谷氏の当初のコレクションである近代洋画や日本画の数々を展示しています。

 

 

美術鑑賞の後はカフェ 「交流サロン FIELD」 でゆったり

「交流サロン FIELD」の店内の様子
水と紅葉のコントラストが綺麗!

特別展を楽しんだあとは、館1階にあるカフェ「交流サロン FIELD」でゆったりと過ごすのがオススメ!

こちらは阪神西宮にある「COFFEE HOUSE FIELD」さんが手掛けており、美術館の綺麗な庭園を眺めながら、美味しいコーヒーやスイーツをいただけます。

今期のイチオシは「アートカプチーノ(650円)」。お好きな写真やイラストをカプチーノにプリントしてもらえます!

 

 

お手持ちのスマホから画像を選んでもいいですし、店員さんにお願いすれば、今回の企画展ロゴをプリントしてもらうこともできますよ。

テーブルに置かれたアートカプチーノと展示会図録
美味しいカプチーノを飲みながら展示の余韻に浸るのも素敵

※カフェ営業時間:展覧会開催中の11:00~16:00(ラストオーダー15:45)

さまざまな特典が嬉しい「おかげさまで50周年」企画

『Back to 1972―50年前の現代美術へ―』の会期中は、「おかげさまで50周年」企画を行っていて、一部の来館者にはちょっとした“特典”があります。 まず、毎日先着30名には、同展オリジナルのドリップバックコーヒー「Back to 1972 Blend」がプレゼントされます。

先ほどご紹介した「COFFEE HOUSE FIELD」協力のもとで完成したというこちらのコーヒーは、豊かな香りとさわやかな酸味で味のバランスが良好。とても飲みやすいコーヒーです。気になる方は早めの来館がおすすめ!

また、1972年生まれの方は、なんと入館無料!美術館と同い年の方に向けた粋な計らいです。 ※証明書の提示が必要です

『Back to 1972 50年前の現代美術へ』まとめ

50年前の現代美術の世界を味わえる本展。展示品を通して、西宮市大谷記念美術館が誕生した当時の空気感や美術家たちの想いを確かに感じました。

現代美術好きな方はもちろん、普段美術館に馴染みのない方でも、この機会に西宮市大谷記念美術館に足を運んでみてはいかがでしょう?鑑賞後のカフェタイムも併せて、優雅なひとときがあなたを待っていますよ。



▼詳しくはこちら▼
西宮市大谷美術館公式サイト『 西宮市大谷記念美術館 開館50周年記念 特別展
Back to 1972 50年前の現代美術へ 』

西宮市シティプロモーションポータルサイト 「まなび、すむまち。にしのみや」 でレポート記事掲載中!