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西宮人vol.20 FUMIYA OGISHI

西宮には、数々の名所があります。その中でも代表的なものが「えべっさん」として親しみのある西宮神社ではないでしょうか?西宮神社では1年を通してたくさんの行事が行われており、その中でも新年恒例の「福男選び」はニュースでも大きく取り上げられています。

今回は、令和7年度の「一番福」を手にした、大岸史弥さんにお話を伺いました。

「福男選び」の歴史

最近では、福男レースと表現されることのある「福男選び」ですが、その歴史は古く、鎌倉・室町時代頃に発祥したと言われています。「居籠(いご)もり」の時間が終わると、信仰深い人たちが1番先に「えびす神」にお参りしようと、自宅から神社に走って行ったことが始まりと言われおり、それが「走り参り」の起源だそうです。

「居籠り」とは、古く室町時代の記録にも残されています。この日は、えびす様が白い馬に乗って氏子町内を巡行する日で、えびす様のお顔を見るなどおそれ多いので、神社は門を閉ざし、人々もじっと家に籠(こも)り、夜が明けてから参拝に来たのが開門神事の始まりです。神社の中では、神職は祭典を行う前に身体を清め、静寂の時を過ごし、早暁四時の大祭に備えます。

安土桃山時代には、ある武将が「居籠り」という神聖な日に戦を始めたために、西宮で戦に負けてしまったというお話もあるようです。

開門神事「福男参り」に参加するまで

筆者

大岸さんは、宝塚の高校に通っておられるそうですね。「福男参り」に参加された時は2年生だったとお聞きしています。
まずは、「福男選び」に出られたきっかけを教えてください。

大岸さん

9日の放課後に、陸上部の友達から誘われました。
「福男選び」に参加するには、まず抽選があります。
夜10時半から整理券が配られ、抽選が始まったのは夜中の12時でした。

筆者

毎年5千人もの人が集まるそうですね。

大岸さん

そうですね。「当たらないだろうな」と思って運動着も着ずに行ったので、抽選で当たった時は驚きました。
抽選の後は色々と説明を受けて、4時に集合しました。

筆者

神社の中では「十日えびす大祭」が行われる時間ですね。

「福男参り」に参加される方々が、今か今かと開門を待つ表大門は、通称赤門(あかもん)と呼ばれています。こちらの門は桃山建築の遺構を残し、重要文化財に指定されています。

こちらにも、「一月十日午前六時開門神事が斎行され福男が選ばれる」と記されています。

筆者

早朝6時の開門まで、どんなことを考えていましたか?

大岸さん

あの日はとても寒くて、門の前の通路が凍っていました。「これは滑るな」思い、「カーブは石のところじゃなくて土のところを走ろう。サイドの土を走ったら滑らないだろうな。」とか考えていました。

筆者

テレビで拝見した時は、ダントツ1位で走っておられましたね。ご自分が1番で走っていることには気づいてましたか?

大岸さん

全く気付いていませんでした。走り終わった時は、ただただ驚きました。

筆者

まさか1番になるとは思ってなかったんですね。お友達も喜んでくれたでしょうね。
走り終わってからは、どんなことをするのですか?

大岸さん

まず福男の認定式があります。その後に記者会見があり、テレビ局や新聞社のインタビューを受けました。
参拝に来られた人から「写真撮ってください!」ってたくさん声をかけられ、一緒に走った人たちからも「おめでとう、おめでとう!」って祝福されました。4回も福男参りに参加されている人もいたのに、僕は初めて出て福男になってしまい、申し訳ない気持ちにもなりましたが、それでも皆さん一緒に喜んでくれました。

筆者

テレビでも大きく報道されましたが、周りの反応はどうでしたか?ご自分の中でも何か変化はありましたか?

大岸さん

自分の中では特に変化はなかったのですが、1月は知らない人に「福男や!」って、しょっちゅう声をかけられました。(笑)
学校に行くと、みんながお祝いの言葉をかけてくれ、校長先生にも呼ばれたりしました。OB、OGの方からもお祝いを頂き、垂れ幕を掛けてくれました。
個人で経営されているお店からも「お店に来てください」って呼ばれて、あちこちのお店にも行きました。
今年は阪神淡路大震災から30年の節目になる年ですし、昨年の能登半島地震も記憶に新しいので、頂いたお祝いは寄付することにしました。
自分の福を、能登半島地震で被災した人たちに分けられたらと思います。

筆者

能登半島で被災された方々にも、「福」が届いていると思います。明るいニュースは皆さんを元気にしますよね。
先ほども、「写真を撮ってください。」と声をかけられていましたね。
「福男」は商売をされている方々にとって特別な存在だと思います。お店に写真を飾られるそうですね。こうやって福を分けているのですね!

筆者

西宮神社にはたくさんの行事がありますが、「福男」として参加される行事があれば教えてください。

大岸さん

6月の御輿屋(おこしや)祭と9月の例祭「西宮まつり」には参加予定です。

筆者

「御輿屋(おこしや)祭」は、西宮神社の創建に関わる大切な祭ですね。
もう1つの「西宮祭り」は西宮神社において最も重要な祭典だと聞いています。毎年9月22日を中心に、21日は「宵宮祭」、23日には「渡御祭」が行われていますね。まさに「福男」の出番ですね!
ところで、陸上部に所属されているそうですが、専門種目は何ですか?

大岸さん

専門は「やり投げ」です。小学校から9年間野球をやっていたのですが、違う競技にも興味がありました。
もともとは長距離だったのですが、先輩がやり投げをしているのを見て「投げてみたいな」って思って転向しました。

筆者

やり投げを間近で見るのは初めてなんです。テレビで見るより重そうですね。きっと野球で鍛えられ肩が活かされているのですね。部活の仲間とも仲が良さそうですね。
さて、春からは受験生だとお聞きしましたが、どのような進路を考えていますか?

大岸さん

中学か高校の体育の先生になりたいので、大学はスポーツの方面を考えています。大学でもやり投げは続けたいですね。
中学生の時、野球部の顧問の先生に「やると決めたことは最後までちゃんとやりきれ」って言われたことが、今でも心に残っています。高校受験の勉強はその言葉に背中を押されて頑張ることが出来ました。
自分も、その先生のような教師になりたいです。

筆者

きっと生徒に大人気の先生になられると思います! 生徒一人ひとりに寄り添えるような素敵な先生になってくださいね。

大岸さんからのメッセージ

筆者

最後になりましたが、大岸さんから若い世代に向けてメッセージをお願いします。

大岸さん

以前、自分が発した言葉で相手をとても傷つけたことがあります。それからは、自分の言葉に責任を持ち、よく考えてから発言するように気をつけています。自分が軽く発言したことによって、人間関係も崩れてしまいます。そうならないように、まずは人間関係は大事にした方が良いと思います。

もう1つは、やりたいことや挑戦したいことはたくさんやった方が良いなって思います。
自分は走るのが好きで、中学の時はめっちゃ走ってました。それは今でも続いています。続けることも大事だと思います。

筆者

自分が軽く口にした言葉で相手を傷つけてしまう事は、誰しも経験のあることだと思います。その経験を次に活かしていくことが大事ですね。今後のご活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。

取材を終えて

陸上部に所属する高校生とお聞きして、元気いっぱいの方を想像していましたが、大岸さんはとても穏やかで落ち着いた方でした。黙々とやり投げを練習する姿も素敵でした!副賞のフィナンシェはクラスメイトや部活仲間に、お酒は親戚や先生方にプレゼントされたそうです。大岸さんを通じて周りの方に良いことがたくさん起こったと、笑顔で語ってくださいました。

西宮神社の重要な「神事」である「福男選び」ですが、最近は「1番になること」が目的のレースやスポーツと捉えられている方が多いように思えます。時代の流れとともに本来の意味が薄れてしまうのは仕方ないかもしれませんが、今一度、西宮神社の歴史に触れてみてはいかがでしょうか?えびす様がより身近な存在になると思います。

この記事を書いた人

ナカムラヨシミ

ライター

宮っこ歴10年程。 人と話すのが好きで、取材・インタビューを中心とした記事を書いています。 私の記事が皆さんの「何か」に出会えるきっかけになれば嬉しいです。

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